軽貨物運送業で独立開業したいと考えている方は、「軽貨物運送業の許可」が必要なのか、具体的にどんな手続きが必要なのか気になっているのではないでしょうか。結論から言うと、軽貨物運送業(正式には「貨物軽自動車運送事業」)を始めるのに厳密な意味での許可は不要です。ただし、営業を開始する前に所定の届出を行い、車両のナンバーを営業用(黒ナンバー)に変更する必要があります。
本記事では、軽貨物運送業の概要や必要な手続き・届出の流れ、開業にあたって準備すべきことを分かりやすく解説します。ぜひ参考にして、スムーズに軽貨物ドライバーとしての一歩を踏み出しましょう。
軽貨物運送業とは?許可は必要なのか
軽貨物運送業とは、軽自動車(排気量660cc以下の軽トラック・軽バンなど)や125ccを超えるバイクを使って、有償で荷物を運送する事業のことです。ナンバープレートの地色が黒で文字が黄色いことから、業界では「黒ナンバー」とも呼ばれます。この事業を始めるために特別な国家資格や試験は必要ありません。一般の貨物運送業(いわゆる緑ナンバー)が国土交通省の許可制で審査に3~6か月程度かかるのに対し、軽貨物運送業は届出制のため必要書類を提出すれば最短1日で開業可能なのが特徴です。
軽貨物運送業で求められるのは**「届出」**であって、「許可証」を取得する手続きではありません。
役所への届出に必要な書類が整っていれば基本的に誰でも開業が認められます(書類不備があると受付してもらえないので注意しましょう)。つまり、「軽貨物運送業の許可」という言葉は誤解を招きやすいですが、実際には所定の届出をすることで営業開始の要件を満たすことになります。
なお、軽貨物運送業として配送業務を行う場合は、営業用ナンバー(黒ナンバー)への変更が法律上必須です。もし自家用のまま有償運送を行うと道路運送法違反となる可能性があるため、必ず開業前に正規の手続きを踏みましょう。
軽貨物運送業を始めるための主な条件・必要なもの
軽貨物運送業は届出制でハードルが低いとはいえ、開業にあたって満たすべき条件や準備があります。以下に主なポイントを整理します。
事業に使用する車両として、車検証の用途が「貨物」の軽自動車(軽トラックや軽バン)または排気量125cc超のバイクを最低1台用意します。車両は新車中古車どちらでも構いませんが、事業開始時にナンバーを黒ナンバーへ変更できる車両であることが条件です。
※2022年以降は一部、用途が乗用の軽自動車でも事業用登録(黒ナンバー)可能となりました。
事業の拠点となる営業所および車両を置く車庫を用意します。営業所は自宅でも問題ありません。車庫は原則として営業所に併設(同じ場所)するのが望ましいですが、難しい場合は営業所から2km以内の場所に確保する必要があります。都市部で自宅に駐車スペースが無い場合は月極駐車場を借りるなどして車庫を用意しましょう。また、長距離運転時のドライバーの休憩・睡眠施設についても営業所付近に確保するよう努めます(自宅兼営業所であれば自宅が休憩場所になります)。
荷主(依頼主)と運送人(あなた)との契約内容を定めた運送約款を用意します。難しく聞こえますが、国土交通省が標準的な約款の雛形を公表しており、それを使用するのが一般的です。届出の際に提出こそ不要ですが、事業開始までに備えておきましょう。標準約款を使う場合は内容を理解しておくとともに、必要に応じて自社用にカスタマイズしても問題ありません。
商売で車を使う以上、事故に備える保険は不可欠です。自賠責保険(強制保険)はもちろんですが、営業用車両は事故率が上がる傾向があるため任意保険料も自家用に比べ高額になります。対人・対物の任意保険には必ず加入し、可能であれば貨物損害保険にも加入しておくと安心です。大手企業から配送業務を受託する際、貨物保険加入が条件となるケースも多いため、仕事の幅を広げるためにも検討しましょう。
言うまでもありませんが、自分で配送するなら普通自動車運転免許(AT限定可)が必要です。125cc超バイクで行う場合は二輪の免許も必要になります。開業時点では一人でも始められますが、将来的に車両10台以上・ドライバー複数で事業を行う場合には運行管理体制の整備や整備管理者の選任なども求められます(※車両10台未満なら自分一人で運行管理者を兼任可能)。
開業にあたり法律上の最低資金要件はありません(一般貨物のような資本金要件なし)が、車両取得費や保険料、当面の燃料代などの資金は自己準備が必要です。また、開業後しばらくは安定収入が得られない可能性も考えて、生活費も含めた予備資金を用意しておくと安心です。
以上のように、軽貨物運送業は特別な資格や大きな初期投資なしで始められる反面、事業者として必要最低限の設備と準備を整える責任があります。では、具体的にどのような届出や手続きを踏めば晴れて開業できるのか、次の章で解説します。
軽貨物運送業開業の手続き・届出の流れ
軽貨物運送業を始めるには、主に運輸支局への届出とナンバープレートの変更という2つのステップがあります。開業に必要な書類を準備し、所轄官庁に届出を済ませれば、その日から営業を開始することも可能です。以下に開業までの一般的な流れをステップごとに説明します。
開業届出に必要な書類を作成・収集します。具体的には、後述する運輸支局提出用の届出書類一式(届出書、運賃表、連絡書など)と、車検証のコピーを用意します。また、車両や営業所・車庫の準備、保険加入、運送約款の用意など前提条件をこの段階で満たしておきましょう。個人事業主として開業する場合、税務署への**開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)**も合わせて準備します(開業後でも提出可ですが、事前に記入しておくと安心です)。
まず営業所を管轄する地域の**地方運輸支局(運輸局)**に出向き、軽貨物運送事業の経営届出を行います。提出書類は以下の通りです。
・運賃料金設定届出書および運賃料金表(運送サービスの料金を示す書面)
・事業用自動車等連絡書(運輸支局が押印する書類。後でナンバー交付時に必要)
・車検証の写し(営業用に登録する車両の車検証コピー)
※新車でまだナンバー未登録の場合は完成検査証など車台番号が分かる書面を用意します。
書類一式は基本的に**2部(正副)**用意し、運輸支局窓口へ提出します。届出は無料で、書類に不備がなければその場で受理されます。窓口で担当者に確認してもらい、問題なければ「受理印の押された事業用自動車等連絡書」をその場で受け取ります。この連絡書が後ほどナンバープレート変更の際の証明となります。
運輸支局で経営届出が完了したら、次に軽自動車検査協会(軽自動車のナンバー交付を行う機関)の窓口へ行きます。ここでは現在の黄色ナンバープレートを黒ナンバーに交換する手続きを行います。持参するものは以下の通りです。
・車検証の原本
・現在使用中のナンバープレート(前後2枚)
・印鑑証明書と実印(申請者本人確認のため)
(個人名義で車検証の所有者が本人以外の場合は住民票、法人名義の場合は登記事項証明書も必要)
窓口で所定の申請書に記入し、上記書類とともに提出すると、新しい黒ナンバー(事業用軽自動車ナンバー)が交付されます。ナンバー交付手数料として数千円程度(ナンバー代金)がかかります。交付された黒ナンバーを車両に取り付け、車検証の種別も営業用に変更されたら、車両の登録変更は完了です。この時点で晴れて貨物軽自動車運送事業の営業者となります。
まだ税務署へ開業届を出していない場合は、忘れずに提出しましょう。開業届は法律上、事業開始から1か月以内に提出することと定められています(遅れても罰則はありませんが、青色申告の特典などが受けられなくなります)。用紙は国税庁のサイトからダウンロード可能で、所轄税務署に持参または郵送で提出できます。開業届を出しておくことで、確定申告時の控除が受けられるなどメリットが大きいので忘れずに行いましょう。
事業開始にあたり、業務に必要な備品(台車、スマホ・カーナビ、荷締めバンド、作業用手袋など)を準備します。また、営業車両に社名や屋号のステッカーを貼る場合はこのタイミングで用意しましょう(法律で義務付けられてはいませんが、荷主から信頼を得るために表示している事業者も多いです)。運送約款もすぐ提示できるよう印刷して携行するか、電子データで保存しておくとよいでしょう。
以上で開業手続きは完了です。届出からナンバー取得まで最短で当日中に完了し、その日から営業開始も可能です。初日は無理なくナンバー変更まで済ませ、翌日以降から本格的に配送業務をスタートすると良いでしょう。
軽貨物運送業のメリットと注意点
軽貨物運送業は個人でも始めやすい事業ですが、成功するために知っておきたいメリットと注意点があります。
・開業ハードルが低い
特別な資格や許可申請が不要で、車と普通免許があれば誰でも始められます。届出制のため手続きもシンプルで、初期費用も抑えられます。小資本・一人から気軽に独立可能な点は大きな魅力です。
・開業までがスピーディー
一般貨物運送業のような長い審査待ちがないため、思い立ったらすぐ行動に移せます。準備が整えば届出翌日から収入を得ることも夢ではありません。
・税金面での優遇
黒ナンバー車両は自家用の軽自動車に比べて自動車税が安く設定されています(地域にもよりますが年額3,800円程度で、自家用の約5,000円より低い)。事業用車両として燃料費等の経費計上もでき、適切に申告すれば節税メリットも享受できます。
・自由な働き方
個人事業主である軽貨物ドライバーは、自分の裁量で仕事量やスケジュールを調整できます。他の仕事と掛け持ちしたり、繁忙期に集中的に稼いだりといった柔軟な働き方も可能です。頑張った分だけ収入アップが見込めるやりがいもあります。
・収入は「売上-経費」
手取り収入は稼いだ運賃からガソリン代、高速代、車両維持費、保険料、駐車場代など全ての経費を差し引いた残りになります。思ったより経費がかさみ、手元に残るお金が少なくなるケースもあるため、事前にシミュレーションしておきましょう。特に燃料費の高騰時や車両故障時には負担増となる点に注意が必要です。
・労働時間が長くなりがち
独立当初は十分な仕事を確保するために長時間働く人も多いようです。実際、業界調査では週6日稼働するドライバーが37%、**1日9時間以上働く人が53%**にのぼるとのデータもあります。体力勝負の面もあるため、健康管理や休息の計画も大切です。
・競争環境の厳しさ
個人の軽貨物事業者は年々増加傾向にあり、市場競争は激しくなっています。近年は燃料費高騰や運賃の低迷もあって、軽貨物運送業の廃業・倒産も増加傾向にあるとの報道もあります。安易な参入は禁物ですが、一方でEC物流の需要拡大により仕事自体のニーズは高まっています。事前に市場や契約先をリサーチし、戦略を持って参入することが重要です。
・営業力・継続力が必要
個人事業主として、自分で継続的に仕事を獲得していく努力が求められます。運送マッチングサービス(例えばハコベルやPickGoなど)に登録して案件を探したり、地元の運送会社と業務委託契約を結んで定期案件を受注したりといった営業活動も必要になるでしょう。最初は実績作りのために小さな案件からコツコツ積み上げ、信頼と顧客ネットワークを広げていくことが成功の鍵です。
以上の点を踏まえ、しっかりと準備と計画をして開業に臨めば、軽貨物運送業は大きなチャンスとなり得ます。現在、ネット通販の普及により荷物の小口化・高頻度配送の需要が高まっており、軽貨物ドライバーへの期待は高まっています。時代のニーズに合ったサービスを提供できれば、安定した収入を得ることも十分可能です。
まとめ:軽貨物運送業を始めてみよう!
軽貨物運送業は、必要な届出さえ済ませれば誰もがすぐに始められる魅力的なビジネスです。許可不要で開業できる反面、事業者としての自己管理や努力も求められます。本記事で解説した準備事項や手続きの流れを参考に、一つ一つ着実にステップを踏んでいきましょう。
まずは営業所を管轄する運輸支局に問い合わせたり、必要書類の入手から始めてみてください。書類作成に不安がある場合は行政書士など専門家に相談するのも一つの方法です。開業のハードルは決して高くありません。あなたもぜひ軽貨物運送業の届出を行い、憧れの軽貨物ドライバーとして第一歩を踏み出してみましょう!需要が拡大する物流業界で、あなたの新しい挑戦が実り多いものになることを願っています。